オペラグラス アイーダ(モネ劇場) Opera Glass - Verdi Aida Theatre Royal De La Monnaie
オペラ・グラス
2004年10月13日 ヴェルディ: アイーダ (モネ劇場)
Oct. 13 2004 Giuseppe Verdi "Aida", Theatre Royal de la Monnaie
10日初日のアイーダ。初日がマチネーと言うのもちょっと変わっているけれど、評判は上々です。例によって年間通しでチケットを抑えてあるので、3回目の公演である13日に出かけてきました。
今回のアイーダは2002年1月にモネ劇場がコヴェントガーデンと共同制作したもので、当時モネ劇場の芸術監督であった、パッパーノはこのアイーダを持ってコヴェントガーデンに移ったのでした。その後を引き継いだ大野にとって、この演出を取り上げることを決めた胸中はどうだったのでしょうか。
しかも、主な配役は2002年の初演とほとんどおんなじ。違うのは指揮者だけ、と言っても過言ではありません。なお、今回は合計13回も公演することもあり、主要配役は完全ダブルキャストになっていて13日の公� ��は初日と同じく、2002年のプルミエの際の配役と同じでした。従って本当に違うのは指揮者だけです。これだけを見ても今回の公演はいろんな意味で開演前から期待が嫌がおうにも高まります。
演出はRobert Wilson。彼による演出は先週パリでペレアスを観たばかりですが、極限までに舞台装置を抑えた象徴的な演出で照明を多用し、今回のアイーダは「極東的なミニマリスト」による美の極致などと(地元の論評では)評され、なかなか好評です。
さて、アイーダの舞台は古代エジプトのはずですが、それをイメージさせるものはほとんどありません。短い前奏曲に合わせて現れる舞台は、左の方に鳥の頭のような岩と右上方から白い照明の中で輝く槍のような棒。前奏曲の後半にはこの鳥の頭が右の方に動いていき、一瞬炎が上がるというものです。これはこれで美しく、サービス精神は認めるものの、意味不明。いっそのこと何にもない舞台でも良かったと思います。
1995年ターナー賞を受賞したアーティスト
登場人物の衣装もエジプトを想起させるものはありません。「中国的」とする批評家もいたようですが、それとも違う無国籍のものです。凱旋将軍ラダメスもランフィスも黒一色。アムネリスは紺色のボディコンのドレス。アイーダは白のドレス、とまあエジプトの宮廷とはとても思えません。その一方で後半登場のアモナスロは、上半身裸で頭にはターバンらしきものを巻いており、まあそれらしい格好なのですがかえってちょっと違和感があります。
無機質で象徴的な舞台装置に合わせたのか、登場人物の動きも極端に抑制されています。それぞれの歌手は操り人形のような動作を繰り返し、ちょうどホフマン物語に出てくる機械仕掛け� ��オランピアのようです。特にランフィスをはじめ僧侶たちの動きはロボットより不自然で、最近流行のアルゴリズム・たいそうを見ているような気にさせます。エキゾチックな雰囲気を出そうと言う意図はわからないでもないですが、外国趣味を超えてエキセントリックになっています。
極端に少ない歌手たちの動き(そのために舞台装置である岩だのが動いていく、相対性原理の世界が展開されるのですが)はコンサート形式のオペラ、あるいはオラトリオを彷彿とさせますが、特にそれが悪いとは思いません。しかし、登場人物がやたらと後ろ向きに下がっていく場面が多く不自然です。例えば、浄きアイーダを歌ったあとのラダメスの周りを疑心暗鬼のアムネリスがうろつくのはいいとしても、顔は正面を向いたまま、ラダ� ��スの周りを後ろ向きに回るのはどうも変な感じです。
ilandフィーバー4
舞台装置を最小限に抑えた分、照明は饒舌です。青を基調とし、黄色から緑と美しく背景を飾ります。しかしこのオペラを支配するのは黒。歌手に当たるスポットライトは必要最小限。舞台の照明も抑えられ、黒と暗闇のコントラストが美しく、荘重な雰囲気をかもし出していました。メトなどでありがちな写実主義を標榜しながらも、実はなんのとりえもない演出だと絢爛豪華な黄金と太陽の光に満ち溢れた舞台になりがちですが、逆にシンプルな黒を基調とする舞台は議論の余地はあるものの、ある種時空を超越し登場人物の心の葛藤のみに焦点を当てると言う意味からは大変効果的でした。
主な配役は2年前と全く変わりません。従って歌手たちはこの演出の意図する ところを十分汲み取った上で大変余裕のある舞台とすることに成功しているように見受けられました。第一、体の動き自体が演出によって極端に制約、変形されているので感情表現はほとんど顔の表情のみで行うことになりますが、やや一本調子のところはあるものの、十分説得力のある演技が見られました。
さて、ラダメスの役は幕が上がってほとんどいきなりあの「浄きアイーダ」を歌うというとても難しい役です。ラダメス役のベルティはある評によると「ポスト・パバロッティを担うイタリア人テノールの第一人者」という触れ込みです。たしかにイタリア人ならではの張りのある歌唱はパバロッティを彷彿とさせる箇所も多く、評判に偽りなしとなかなか立派なものです。もっとも登場いきなりの「浄きアイーダ」では序盤がやや不安定だったのは仕方がないところでしょう。高音部では場内を突き破るようなすばらしい声を響かせる一方で、低音部になると声質がかわり、不安定になるのは残念でした。ともあれある意味「テノール・バカ」を地で行く歌いっぷりは、そういう役回りなのでどうしようもないところです。
アンジェリーナ·ジョリーはどのように背が高い
アムネリス役のコムロシは不自然な振り付けにもかかわらず、素晴らしい歌唱です。ハンガリー出身ですが、パバロッティコンクールで優勝してからの経歴をみても素晴らしく貫禄のある歌手で、やや暗めの声はカラスのそれを思い出させます。もちろん表現力も豊かで心の動きも制約された動作を超えて伝わってきました。そもそもアイーダというオペラは内容を見る限り、アムネリスが主役であってもおかしくなく、今回の配役は見事にそれを再確認させるものでした。
アイーダ役のファンティーニも堂々たる歌いっぷりで、主役3人ともバランスの取れた見事なアンサンブルを聴かせました。ややアムネリスとアイーダの声の張り合� ��になってしまいがちでしたが、どうしてもアイーダがアムネリスに食われてしまうのは、そもそもそういう風に音楽がなっているわけでファンティーニのせいではありません。とはいえややアムネリスにつられて張り合いすぎてしまうところもあり、本来アイーダの持っている心中の弱さが必ずしも十分には表現しきっていなかったところはやや残念でした。彼女は最近あちこちでアイーダを歌いかなりの評判をとっていることもあり、今後とも活躍が期待されるところです。
他の歌手陣もなかなかの公演で、歌に関する限り大変バランスの取れた好演でした。これぐらいの水準のオペラが毎回聴けると言うことないのですが・・・
さて、この演出の最大の問題点はバレエです。ウィルソンの全体の演出のコンセプトにそも そもアイーダというオペラの設定がミスマッチなのか、どうもバレエの場面になると場がしらけてしまうのは残念です。ここのダンサーはとても上手いのですが、どうもウィルソンの舞台設定と振り付けが合っていない感じがしました。やはり伝統的な写実主義の演出でもなければヴェルディの音楽が浮いてしまうのかもしれません。オペラの演出におけるバレエの扱いと言うのはかなり深い問題のような気がしました。
大野の指揮はてきぱきしたもの。ただ、もう少し響かせるところは響かせても良かったかもしれません。例えば大行進曲の場でもオーケストラはなぜかせっかちに急ごうとしているのが感じられ、ちょっと残念でした。全体的には大変響きもよく、素晴らしい演奏でしたが、ところどころテンポ設定やディナーミークに疑問を感じるところがありました。オーケストラが能天気に弾いているせいもあるのかもしれませんが、時に歌手を不用意に消してしまうほどバランスを崩して大野がしきりに調整をしていた場面もありました。先のワーグナーでもそうでしたが、オーケストラをドライブするのではなく、うまく走らせて、しかも抑えるところは抑えるという演奏はなかなか難しいもので� ��。
最後に、細かく見ていくといろいろあるのですが、全体としては素晴らしく高水準の公演でした。不思議なのはめったに見られないであろうこの高水準の公演を前にしてブリュッセル聴衆がずっとおとなしく静かにしているところでした。なんとアイーダにしろラダメスにしろアムネリスにしろ素晴らしいアリアが終わっても、ボーっとしているのみで、思わず拍手をしそうになっても誰も続かず、辛うじてその人がこらえていると言うなんだかお通夜にでも来ているかのような反応。最初のうちは歌手も指揮者も「あれ?」と言う感じでしたがそのうち慣れてきたのか、客席はお構いなく演奏を続けていました。かつて「ポルティチのおし娘」の上演中に大騒ぎになって独立運動に発展したブリュッセルの聴衆の熱狂はどこに� ��ってしまったのでしょうか。イタリアなら決してありえないと思いますが・・・心なしか終幕の拍手も少なめでしたが、演奏の質からすればもっと観客が騒いで賞賛してもいいのにと思いながらも、流石に一人だけ騒ぐわけにも行かず、なんだか不思議な気持ちで劇場を後にしました。
指揮:Kazushi Ono 演出:Robert Wilson
配役:
Aida:Norma Fantini / Radames: Marco Berti / Amneris : Ildiko Komlosi / Amonasro : Mark Doss
Ramfis : Orlin Anastassov / l Re : Guido Jentjens / Una Sacerdotessa : Michela Remor /Un Messagiero : Andre Gregoire
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